日本人にとって鯛は特別な魚である。祝いの席はもちろん、一年間の幸運を期す正月などにも鯛は欠かせない存在となっている。では何故、何時からそうなったのか?縄文時代の遺跡から骨が発見されているように、日本人は遥か古代から鯛を食用としてきたが、現在のように鯛が魚の王としての地位を確立したのは江戸時代からといわれている。理由はその堂々たる姿形と崇高(すうこう)な味、そしてその赤い色。

古来日本人は赤をめでたい色としてきたので、鯛の赤い体色はめでたい色の魚と認識されたのだ。以来鯛はめでたい魚として珍重され、江戸時代の花柳界では鯛のエラの下にある魚形の小骨(鯛中鯛)を身に付ける(幸運を呼ぶとされた)のが流行ったりしたほど。
また幸運をもたらす七人の神を祭る日本の民間信仰“七福神”でも、大漁、商売繁盛をもたらすとされる神(エビス様)を描いた絵は必ず鯛を抱えている。これらが一体となって、鯛はめでたい魚という認識が確固たるものになっていったと思われる。

もっとも、この七福神と鯛の関係は微妙で、室町時代にエビス様が抱えていたのは鯉(内陸部に都があった遥か昔は淡水魚の鯉が魚の王だった)だったのが江戸時代に鯛に変わったという説もある。エビス様が抱えているから縁起が良いというよりは、縁起が良い魚だからエビス様が抱えているべきだと変更されたのか。

いずれにせよ江戸時代以降は七福神と鯛はセットとなり、鯛の縁起物としての地位は揺るぎないものとなっていった。 因みに祝いの席に出される際の鯛の代表的な調理法は“尾頭付き”。頭から尾の先まで丸ごと共される。これは“初めから終わりまで完璧に縁起が良くあれ”という意味である。